大人になって好きなことを調べてみたり、もっと深く学んでみたりすると、実は「勉強」って好きなものを好きなペースで学ぶことができれば、こんなに楽しいものだったんだと気づくことがあります。
よく考えてみると、身体を動かすことも、絵を描くことも、人から強制的にやらされるとなると、途端に「楽しさ」が半減します。
自分で何を学ぶかを決め、自分で教材を決め、さらにその学ぶための時間をすべて自分で決める「独学」。
自分が好きで学び始めたことも、自身に学ぶ必要があって目標を立てて始めたとしても、自分で学びのペースを作りあげないとならない「独学」は、続けるのが難しいものです。
そのようなある種の困難さを抱えた「独学」をやり続けるにはどうすれば良いのかや、他の人達はどうやって独学を続けてきたのか…といった「大人の独学」について、ぜひ手にとっていただきたい本を5冊ご紹介します。
(この5冊はホントバに置いてあります)
「独学大全 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法」読書猿(著)プレジデント社
ネット上で「鈍器本」という名(?)がつけられた最初の本。
この後から鈍器本ブームが起こり、さらに「大全」というタイトルの書籍がずいぶんと増えました。
出版時はAmazon、店頭ともに入手困難状態が続き、X(現Twiter)では、「XXX書店で見かけた」「XXX堂で平積みまだ4冊あった‥」など書店の入荷状況が飛び交うなど、独学ブームの火付け役となった本。
この本ではどうして独学が続かないのか、続けるにはどうすればよいのか、そして独学で着実に成果を手に入れるのはどのようにすればいいのかを余すところ書が書き尽くされています。
受験や資格取得に役立つのはもちろんのこと、大学生や大学院生といったアカデミックな研究にまで役立つノウハウが満載されています。
なぜ人は学ぶのか?何を学ぶか?といった「学び」について深く考えたい人にもぜひ読んでほしい1冊です。
”牧野富太郎や南方熊楠、あるいはライプニッツやルソーのような、独学の先人たちから学びを知るべきは、機会や環境が与えられなかったとしても、時に無慈悲に奪われたとしても、人は学ぶことをやめられないということだ。大げさにいえば、人が書物を焼き、学者を埋め、知を見捨てても、知の方は人を手放さなかった。いつか越えられないと思える壁にぶつかったなら、思い出すといい。お前が知を拒まぬ限り、知もお前を受け入れる。その機会や条件が整わなくても、人はいつでも学びを始めることができるのだ。”
「Learn Better ― 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ」アーリック・ボーザー(著) 英治出版
勉強本で多いのは著者の体験した学習方法を書き綴ったもの。
著者の紆余曲折の末にたどり着いた勉強法の本は、その頑張りに素直に共感しやすく、同じような悩みを抱える学習者に励ましを与えてくれたり、踏ん張りの支えになることも多くあります。
しかしその一方で、著者個人の体験に基づいているため、「この著者は恵まれた環境にあったから」「この著者はもともと学歴がある程度あったから」「この学習法って万人には向いていないのでは?」など疑問を抱くことも多々あり、また新たな勉強本や教材に次々手を出してしまうという悪循環に陥るケースがよくあります。
英語学習の本などはこの典型ではないでしょうか?
そこででご紹介したいのが「Learn Better」。
この本は、多くの実証研究調査と、学びの専門家への取材を通して辿り着いた学習法を知ることのできる本で、一人の体験に基づいたものではなく、様々なエビデンスをもとに書かれた本。
米Amazon 2017年ベスト・サイエンス書にも選ばれた本です。
自身の勉強はもちろん、お子さんの勉強や生徒の指導に悩む方にもオススメできる一冊です。
社会的な力学の小さな変化が意外に大きな影響を及ぼしうるという
ことである。例えばある研究では、「ヴィヴェック」のようないか にもアジア人らしい名前のアジア系学生のほうが「アレックス」の ような名前のアジア系学生より数学で好成績を上げやすかった。な ぜか。アジア人らしい名前の学生は数学の授業への取り組み方が「 きっと他の子より真剣なはずだ」と先生に思われ、期待されて目を かけてもらえるからだ。
「リサーチのはじめかた ――「きみの問い」を見つけ、育て、伝える方法」トーマス・S・マラニ―、クリストファー・レア(著) 筑摩書房
数年前から「リスキリング」という言葉がビジネスの世界で流行り始めました。
この言葉はDX(デジタル・トランスフォーメーション)時代には、事務仕事はじめとする今までのスキルはデジタル化、なかでもAIの普及による陳腐化してしまうから、今持っているスキルを新しい時代に合うように学び直そう…ようは「稼ぎ続けるスキル」を新たに身に着けましょう‥という話。
リスキリングのようなスキルベースでの「学び」と対極にあるのが、おそらくこの本で取り上げている「研究」のようなアカデミックの「学び」ではないでしょうか。
自分の知りたいことを突き詰めていく。「リスキリング」が社会で需要のあるものに応じて身につけていくのであれば、この本でいう学びの発端は「問い」。そして「問い」は自分の中から生まれてくるものです。
研究すべきことをすでに持ってる人向けの本はたくさんあるけれど、どうやって「研究すべきこと(=問い)」を見つければいいかを書いた本は今までなく、著者の二人はそのためにこの本を書き上げました。
研究はとてもの楽しい。ひとつには、少なくとも理屈の上ではなんでも研究できるからである。しかし、だからこそ人は途方に暮れてしまう。
いったいどこから始めたらいいのだろう。
その答えはこうだ――まさにいま、きみが立っている場所からだ。
「調べる技術 国会図書館秘伝のレファレンス・チップス」小林昌樹(著)皓星社
インターネットの普及、中でもGoogleのおかげで随分と世の中は、知りたいことを即座にしることができるようになりました。
一方で Googleは検索アルゴリズムを使用して、ユーザーがよく検索するトピックやキーワードに対して高い関心を示します。これにより、多くの人が関心を持つトピックに関連する結果が優先的に表示されてしまったり、リアルタイムなトレンドや時事問題も優先され、特定の期間において人気のあるキーワードやトピックがあれば、それらが検索結果に影響を与えます。
使っていて、自分の知りたいことに答えてくれないと思うことも、多々あります。
そんなときにぜひ手にとって欲しい本が、この「調べる技術」長年国会図書館のレファレンスを担当してきた著者の書いた本です。
独学だけでなく、仕事での調べ物、あれこれ専門的なことを調べたい時に本当に役立ってくれる本です。
図書館がそもそも近くになくて探しものができない方もこの本が手元にあれば、ここまで調べられるのか‥と驚く一冊です。
「エリック・ホッファー自伝―構想された真実」エリック・ホッファー著 作品社
最後にご紹介したいのは、アメリカの社会哲学者であり港湾労働者であったエリック・ホッファー(1902年-1983年)の自伝です。
ドイツ系移民の子としてニューヨークに生まれたホッファーは、5歳から本を読み始めるも、7歳で突然失明、その後15歳で視力を回復した。正規の学校教育を一切受けていないが、失明と視力回復の原因が不明だったことから、またいつ失明するかわからないと思い、視力回復後は朝から晩まで本を読んで過ごしました。
18歳で天涯孤独の身となり、様々な職を転々としながら図書館に通って本を読み続け(そのために彼の借りる部屋はいつも図書館の近くでした)、40歳になる前に港湾労働者(沖仲仕)として働きながら執筆活動を行い、「沖仲仕の哲学者」と呼ばれるようになりました。
後にカリフォルニア大学バークレー校の政治学研究教授になりましたが、沖仲仕の仕事は65歳になるまでやめませんでした。
そんな波乱に満ちた生涯の中で、独学によって思索を深め哲学者となった彼の自伝は、すべての読者に何かしら感じ入るものを与えてくれます。
四十歳から港湾労働者として過ごした二十五年間は、人生において実りの多い時期であった。書くことを学び、本を数冊出版した。しかし、組合の仲間の中に、私が本を書いたことに関心する者は一人もいない。沖仲仕たちはみな、面倒さえ厭わなければできないことはないと信じているのである。